№40 「旅をする本」と「働かないふたり」(星野道夫『旅をする木』)
№44 サンタと入試面接(『クリスマス』に想う)
ひと月ほど前の土曜日の早朝。ふと気が付くと、廊下の奥のドアの前に、長女がぬっと立っていた。ボサボサの長い髪。今、起きたばかりなのだろう。なぜだか満面の笑みである。こちらを見たまま、動かない。つい、声が出た。「何だ、何だ。どうした、どうした?...
№43 ブログとは何か(畑正憲『ムツゴロウの放浪記』)
少し前のテレビのクイズ番組。こんな問題が出た。「ブログって何の略?」若いタレントの答えはこう。それは、ウェブ、ログ。正解である。「ウェブ」、即ちインターネット上の情報を閲覧できるようにするシステム。「ログ」、即ちコンピューター上の記録。つま...
№42 谷川俊太郎の宇宙(谷川俊太郎『旅』)
その日の朝の新聞各紙。不思議なくらいに沢山の、谷川俊太郎さんの記事だった。朝日新聞の「天声人語」。案の定、谷川さんの話題である。「天声人語」らしく、谷川さんと、詩人のねじめ正一さんが、即興漫才をしていたのを見たことがあるという、ちょっと意外...
№41 「ルビコン川を渡る」或いは「賽は投げられた」(塩野七海『ローマ人の物語』)
私の早期退職の件。いよいよ人事当局の耳に入る段となった。気持ちを確認するための、ヒアリングなども始まった。どうなることか。どこへ行き着くのか。「賽は投げられた」という表現がある。並んで「ルビコン川を渡る」という慣用句も良く聞く。違う時代にル...
№40 「旅をする本」と「働かないふたり」(星野道夫『旅をする木』)
私の記憶には「旅をする『本』」としてインプットされているその文庫本の題名。しかし、毎度よく見返せば、本当は「旅をする『木』」なのだ。静かにファンの多い本だと思う。この文庫本自体が、私の中で、ある種のスピリチュアルな存在となっている。幾つかの...
№39 苦役列車と銀河鉄道(西村賢太『苦役列車』に想う)
私が西村賢太さんを知ったのは、その死亡の報道によってである。思い返せば、記憶の片隅に、芥川賞受賞後の、記者会見の様子がぼんやりと蘇ってもくる。そうか、あのときの作家か。突然の死に至る経緯はこうである。夜、タクシーに乗って帰ろうとしたところ、...
№38 馬鈴薯の煮え具合(『カレーライス』に想う)
日曜の午後。早めにカレー作りを始めた。朝食作りや弁当作りなどのプレッシャーに加え、月曜の朝は、自分の出勤の憂鬱も加わる。早め早めに家事を進め、体の負担を減らし、その後のストレスに耐えられるようにしなければ。日曜日の夕飯作りに早く取り掛かるよ...
№37 アトムとかたつむり(浦沢直樹『PLUTO(プルートゥ)』)
マンションの駐車場に着き、車から降りようとドアに手をかけた時のこと。ちょうど目が行く、ドアミラーの付け根のあたり。小さなカタツムリと目があった。いつからそこに、ひっついていたものか。数年前、施設に移った私の両親が残した郊外の家。今や、休日の...
№36 オラオラデ(若竹千佐子『おらおらでひとりいぐも』)
少し前のこと。「おらおらでひとりいぐも」この作品で芥川賞作家となった若竹千佐子さん。その半生をたどる番組を、NHKでやっていた。ついつい通して最後まで見た。若い頃の挫折。家庭を得た安らぎ。文学への思い。専業主婦として日々が過ぎていくことへの...
№35 砥石とナマズ(高村光太郎『鯰』に想う)
いつも使っている包丁の刃先に、小さな錆びが浮かぶようになった。この夏も、随分と湿度が高かった。そのせいもあったと思う。ひどい時は、砥石で研いだ後、ちょっと目を離した小一時間くらいの間に、再び錆びが出ていることがあった。暫く前。父と母が、施設...