ちえプロ

○ちえプロ 「高村光太郎「智恵子抄」プロジェクト」(略称:智恵子さんプロジェクト)
妻の生前の様子をまだ見ぬ子孫達まで届けようとする個人的なプロジェクト

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№51 光の中の細雪(トルストイ『光あるうち光の中を歩め』)

一日の仕事を終え、職場を出る。帰りのバス停へと向かう。この時期の、その時間帯。日は落ち、すっかり辺りは暗くなっている。微かに明るさの残る、深く濃い赤紫の曇り空。見上げると、ちらちらと細かい雪が降っている。風があるのだろう。早いテンポで雪片が...
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№50 指輪と七雪(新沼謙治『津軽恋女』に想う)

その日、家を出るのが、少し遅くなってしまった。ちらちらと雪が舞っている、肌寒い朝。急ぎ足でいつものバス停へと向かう。歩きながら、財布をもって出たか、ハンカチはあるか。半ば無意識にポケットの上から触って確かめる。右手の手袋をはめ、次に左手をは...
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№46 「ほにほに」と「こじこじ」(さくらももこ『コジコジ』に想う)

朝の通勤のバスの中。家の手伝いを、一つお願いした私のLINEに、長女からこんなスタンプが返ってきた。アニメのキャラクターの「コジコジ」が、きりりとした表情で親指を立てて「ぐっ」。へー、まだ「コジコジ」のスタンプなども出回っているのか。微妙に...
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№40 「旅をする本」と「働かないふたり」(星野道夫『旅をする木』)

私の記憶には「旅をする『本』」としてインプットされているその文庫本の題名。しかし、毎度よく見返せば、本当は「旅をする『木』」なのだ。静かにファンの多い本だと思う。この文庫本自体が、私の中で、ある種のスピリチュアルな存在となっている。幾つかの...
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№35 砥石とナマズ(高村光太郎『鯰』に想う)

いつも使っている包丁の刃先に、小さな錆びが浮かぶようになった。この夏も、随分と湿度が高かった。そのせいもあったと思う。ひどい時は、砥石で研いだ後、ちょっと目を離した小一時間くらいの間に、再び錆びが出ていることがあった。暫く前。父と母が、施設...
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№33 トチの実と梅酒(高村光太郎『智恵子抄』)

朝、通勤バスを降りた後。職場へと向かう途中、信号待ちとなる。砕けたトチの実が散乱し、かなり歩道が汚れている。この時期、こんな看板が立つ。「注意、トチの実が落ちます」そっと上を見上げ、街路樹の枝が頭の上にかかっていないか確認する。信号待ちの立...
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№30 バイトと洗濯(『柔軟剤』の香りに想う)

休日の朝。大学四年の二男が、6時前だというのに、何やらごそごそと身支度をはじめている。普段は、午前中いっぱい寝ているくせに。先般、ようやく就職の目処が付いた二男。希望していた職場に滑り込めた様子。自分で納得のいく結果であれば、それで何よりだ...
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№27 ジェームスとクレー(パット・メセニー『オフ・ランプ』)

パット・メセニー・グループに「ついておいで」という曲がある。原題は Aer You Going With Me?この曲と共に、いったいどれだけの眠れない夜を越えてきたか数え切れない。昂ぶった気持ちを落ち着かせるためであったり、痛みを耐えるた...
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№26 せきれい(椎名誠『雨がやんだら』)

夕飯の買い物袋を両手にさげ、スーパーから家に戻る道すがら。路上駐車しているSUVの車の高い屋根の上。ひょっこり、小さな鳥が顔を出した。かなり近いが、飛び立つでもなく、人懐こいような仕草でこちらを気にしている。細いくちばし、まだらなグレー。見...
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№22 幕引きのとき(立花隆『臨死体験』)

昨年の大晦日(2023年12月31日)、中村メイコさんが89歳で亡くなられた。「乾杯で送る会」を行ったという記事をネットで見かけて、はじめて知った。夫の神津善行さんも、いつの間にかもう92歳になっていたようだ。以前は、お二人それぞれテレビで...