○ちえプロ 「高村光太郎「智恵子抄」プロジェクト」(略称:智恵子さんプロジェクト)
妻の生前の様子をまだ見ぬ子孫達まで届けようとする個人的なプロジェクト
ちえプロ №83 やせがえる(『小林一茶』に想う)
車中泊の夜は、ずっと雨だった。車の屋根を打つ雨音に、時々目が覚めたり、うつらうつらとしたり。早朝、目が覚めた後も、不思議と、寝不足のだるさは無かった。静かな心持ち。山あいの、道の駅の駐車場。夜明け前。トイレに行きたくなったが、もう少し明るく...
ちえプロ №80 純米吟醸(『AKABU』に想う)
その日、私は、一人、車でM市へ向かった。ずっと気になっていた、宿題が二つあったからだ。M市は、海に面した港町。若い頃、三年ほど働いた町。そして、亡くなった妻と、出会った町である。今、妻の実家の一軒家には、まもなく九十になる義父が一人、暮らし...
ちえプロ №65 コンサート(エリック・クラプトン『Tears in Heaven』)
日曜日。長女が、服を買ってほしいという。大学の実習で、シンプルな白いシャツが必要になる。遊び着ではないので、買ってもらえないか、との理屈。午後、車で、郊外のファストフアッションの店へと向かった。そこなら、それらしいものがきっとあるだろう。F...
ちえプロ №51 光の中の細雪(トルストイ『光あるうち光の中を歩め』)
一日の仕事を終え、職場を出る。帰りのバス停へと向かう。この時期の、その時間帯。日は落ち、すっかり辺りは暗くなっている。微かに明るさの残る、深く濃い赤紫の曇り空。見上げると、ちらちらと細かい雪が降っている。風があるのだろう。早いテンポで雪片が...
ちえプロ №50 指輪と七雪(新沼謙治『津軽恋女』に想う)
肌寒い朝。その日は、家を出るのが、少し遅くなってしまった。ちらちらと雪が舞っている。急ぎ足でいつものバス停へと向かう。歩きながら、財布をもって出たか、ハンカチはあるか。半ば無意識にポケットの上から触って確かめる。右の手袋をはめ、次に左をはめ...
ちえプロ №46 「ほにほに」と「こじこじ」(さくらももこ『コジコジ』に想う)
朝の通勤のバスの中。家の手伝いを、一つお願いした私のLINEに、長女からこんなスタンプが返ってきた。アニメのキャラクターの「コジコジ」が、きりりとした表情で親指を立てて「ぐっ」。へー、まだ「コジコジ」のスタンプなども出回っているのか。微妙に...
ちえプロ №40 「旅をする本」と「働かないふたり」(星野道夫『旅をする木』)
私の記憶には「旅をする『本』」としてインプットされているその文庫本の題名。しかし、毎度よく見返せば、本当は「旅をする『木』」なのだ。静かにファンの多い本だと思う。この文庫本自体が、私の中で、ある種のスピリチュアルな存在となっている。幾つかの...
ちえプロ №35 砥石とナマズ(高村光太郎『鯰』に想う)
いつも使っている包丁の刃先に、小さな錆びが浮かぶようになった。この夏も、随分と湿度が高かった。そのせいもあったと思う。ひどい時は、砥石で研いだ後、ちょっと目を離した小一時間くらいの間に、再び錆びが出ていることがあった。暫く前。父と母が、施設...
ちえプロ №33 トチの実と梅酒(高村光太郎『智恵子抄』)
朝、通勤バスを降りた後。職場へと向かう途中、信号待ちとなる。砕けたトチの実が散乱し、かなり歩道が汚れている。この時期、こんな看板が立つ。「注意、トチの実が落ちます」そっと上を見上げ、街路樹の枝が頭の上にかかっていないか確認する。信号待ちの立...
ちえプロ №30 バイトと洗濯(『柔軟剤』の香りに想う)
休日の朝。大学四年の二男が、6時前だというのに、何やらごそごそと身支度をはじめている。普段は、午前中いっぱい寝ているくせに。先般、ようやく就職の目処が付いた二男。希望していた職場に滑り込めた様子。自分で納得のいく結果であれば、それで何よりだ...
