№1 始まりは夢十夜ふうに(北杜夫『へそのない本』)

雑文

夢を見た。
日曜未明、まだ暗い明け方。

年相応で仕方がないのかあるいは日々のストレスか、ここ数年いわゆる早朝覚醒に苦しんでいる。
疲労が残っているのに、深夜たびたび目覚めては、その後眠れなくなる。
何度目かのトイレに起きたあと、もう少し寝て疲れをとりたいが無理だろうか、などと布団の中で考えているうちに、その日は図らずも、再び深い眠りに落ちた。

路線バスの座席で、一人揺られている。他に乗客はいない。
私は妻に宛てて、これから落ち合う段取りをメールしようとしている。
だが、画面のスクロールがうまく反応しない。
久しぶりに一緒に過ごせて楽しかった。そんな文案を考えているのにスマホが上手く動かない。

仕方なくこの数日の出来事を振り返ってみる。
眩しいくらいに日差しが強く、暑かった。
妻と落ち合うのに苦労したものの、ようやく一緒に何か親戚関係の用を足した。
やれやれ良かったな、との思い。満ち足りた感覚もある。
いったん別行動となり、今、私はバスでどこかへ移動している。
次の予定のため、合流する場所を妻にメールで連絡したい。

だが、どこを指定すれば良いのだろうか。
そもそも、いったい何のために連絡しようとしているのか。
揺れるバスの中で考えている。
同時に、いや無理だろうと急速に気づき始めてもいる。
妻は11年前に亡くなっているのだから、と。

目覚めて現実にもどり、何とも言えない痛みでいっぱいになるのが常なのだが、その日は違った。
いつもは夢など見ることのない、浅い眠りに苦しむ時間帯であることに気付いたからだ。

かすかな驚き。

新しいことを始めようと心が動いているからだろうか。
そうだ、こういうことをブログに書けばよいのではないか。
北杜夫さんへのオマージュを込めて「へそのないブログ」とでも名付けて。

スマホにメモしようと手に取ると時刻は丁度、午前4時44分。
ぞろ目はスピリチュアルなメッセージとも聞く。
どこかへ踏み出すことを、精霊たちも応援してくれているようだ。

2023年3月某日

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