№4 サブスクと軽自動車(KISS『ハード・ラック・ウーマン』)

ちちプロ

長男が、春から社会人になった。
今、初任給の使い途をあれこれと皮算用している。

高校生の長女にも毎月数百円だけ出させ、後は自分が負担し、音楽配信のサブスクリプションの契約をしたいと思うがどうか。
そう、私に聞いてきた。

反射的に、反対したくなった。
毎月の払いを安易に増やしていてはお金はなかなか貯まらない。倹約とは真逆だ。

一方、長男は音楽配信のサブスクは今やある種のインフラだと主張する。
自分も高校生くらいから周りの友達が羨ましかった。
妹にはそんな気持ちを味わわせたくない、と。

そういえば、私も小学生の頃、お小遣いやお年玉などで貯めたお金で、当時2500円はした洋楽のレコードを度々買ってはいい気になっていた。
その頃、従兄弟の影響で急に目覚めて好きになったのが、ハードロックバンドのキッス。

「デトロイト・ロック・シティ」や「ベス」。「ハード・ラック・ウーマン」も好きだった。

私の父親は、年齢的に高すぎる買い物だと反対した。
しかし、音楽好きの母親が賛成してくれて、結局何度も買っていた。

サブスクを反対するのは、とりあえず保留にすることにした。

少し前の夜、軽自動車が欲しいからお金を貸して欲しいと言う大学生の二男と口論になった。
私のことを気遣って、自分はこれまで随分と我慢してきた。
そういうことを主張しようとして、その時、二男は急にぼろぼろと涙をこぼした。

妻が亡くなったのは長男が12才、二男が10才、長女が5才のときだった。
葬式の前後も、子供達は涙を見せることはなかった。

二男がそんなふうに泣くのを見るのは初めてのことだった。
お互い何も言えなくなり、話はそのまま一旦終わりとなった。
バツが悪かったのだろう。
数日間、二男はどこかに外泊し、夜、帰って来なかった。

その後、どうなったかといえば、今は休日に、二男に付き合って中古車屋まわりをしている。
サブスクの方もやる事になるだろう。
長男は、家族で数名入れるので、お金は良いから、私にも利用してほしいと言ってくれている。

ありがたいことだ。

以前は、億劫で携帯電話にこだわっていた私だが、一旦使い始めると、今やスマホは手放せない。

音楽配信で私の世界も、あるいは何か広がりが出るかもしれない。
意識的に変化を受け入れようとする気持ちが、これからの私にとっては大事なのだと思う。

2023年4月某日