№6 花唄とアイス

雑文

Vaundyの「怪獣の花唄」という曲が人気だ。少年時代の友達との記憶が主題。
誰にもある子供の頃の思い出を呼び覚まし心の琴線に触れてくる。

先般の休み、久しぶりに従兄弟の家に泊まり夜飲むため、沿岸部の地方都市へ一人車で向かった。
私も小学四年生まで、その小さな港湾都市で過ごした。

当時私たちの家族は、高台に造成されたアパートに住んでいた。
町場にある従兄弟の家を訪ねる前に、一人で懐かしい高台へと車を登らせた。
一つ一つの道やカーブが記憶に比べ何と細く狭いことか。
路線バスが発着していた記憶の中では広大なタバコ屋の前の広場も、目を疑うほどに狭い。
そもそもアイスなどを売っていたタバコ屋も今や家自体が取り壊されていて跡形もない。

一口のバニラアイスをチョコでコーティングした「ピノ」というアイスがある。
当時、丁度発売開始された頃だった。盛んにテレビコマーシャルもやっていた。

忘れられないシーンがある。

そのタバコ屋の前のベンチで、一人の友達が、自分の小遣いで買った「ピノ」を今まさに食べようとしている。
私もたまたま居合わせて隣に座っている。一つ食べるか、と聞く友達。
もらって初めて食べたその一粒の何と美味しく感じられたことか。

その子は決して裕福ではなかったと思う。
よく冬でも半袖を着て寒そうに腕組みをしていた。
父親は家にはいない、という噂だった。
当時私は、きっと黒人の血がまじっているに違いないと想像していた。
クリクリとした目、厚いくちびる。褐色でがっちりした体つき。
気の良い少年だった。

あれから数十年。
坂の上の小さな住宅街は、思ったよりも更新されていて、新しい家も建っていた。
きっと津波を逃れ、その高台に移り住んできた人達だと思う。
春の日差しが穏やかでまぶしかった。

2023年5月某日

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