№7 野バラとチャイナローズ

雑文

チャイナローズという品種のバラがある。
我が家では苺ミルクを思わせる、濃いピンクの少しねっとりした質感の花を多くつける。
母が好きで育てていた。
三年前、父と母が一緒に施設に移ったあと、空き家となった郊外の家の手入れは、植木や花壇も含め私の仕事となった。

母の認知症が進行し、同時に病期により父の体の衰えが進んだ数年の間に、私が育ったその家の庭は、知らず知らずのうちに急速に傷みが進んだ。

数株のバラも、ずっと雑草の蔓まみれとなっていた。
枯れて固くなった蔓を一つ一つ取り除き、枝の剪定まで漕ぎ着けたのはようやく昨年の後半のことだ。雑草の森から救出できた、という感覚だった。

春になり今年は、沢山の蕾をつけている。

「このバラは、チャイナローズ、っていう品種」
私の記憶にとどめたいと思ってからか、母は事あるごとにゆっくりと言っていた。

すぐ横に野バラの大きな一株がある。こちらは一足先に白い花を沢山咲かせている。
こぶりの四枚の白い花びらである。
それなりに綺麗なのだが、花自体は全くバラには似ていない。共通点は枝のトゲだけなのだろう。

「こっちは野バラ。雑草なんだけど可愛い花が咲くからそのまま育ててんの。」
母はよくそんな事も言っていた。

認知症が進んだ今、施設へ面会に行っても、もはや何一つ会話は成立しない。
こんな緩やかなお別れの仕方もあるのだな、とつくづく思う。

今日は沿岸部の町で植樹祭が行われている。
心配された天気はどうにかもったようだ。台風は温帯低気圧に変わった。
ただ、名残の風が強い。
庭の草木も風にあおられて大きく右に左に揺れている。

もしバラの花が咲いていたら、風に散らされはしまいかと気が気ではなかっただろう。
しかし、野バラは花びらもタフで強い風にも平気で耐えている。
気持ち良いくらいしなってはまた元に戻る。
それを何度も繰り返し、強い風を受け流す。
そんな野バラを眺めているうちに、少し気持ちがすっきりとしてきた。

2023年6月某日

 

 

 

 

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