№71~№80

ちえプロ

№80 純米吟醸(『AKABU』に想う)

その日、私は、一人、車でM市へ向かった。ずっと気になっていた、宿題が二つあったからだ。M市は、海に面した港町。若い頃、三年ほど働いた町。そして、亡くなった妻と、出会った町である。今、妻の実家の一軒家には、まもなく九十になる義父が一人、暮らし...
のりプロ

№79 繰り出し位牌(釈徹宗『法然親鸞一遍』に想う)

母親の49日の法要を終え、1週間ほどが過ぎた。午後、一人、墓へ向かった。そのとき供えた、花の様子が気になったからだ。案の定、数日前の大雨の名残で、ステンレス製の花立ては、濁った水で一杯になっていた。強い日差しの中、花も既に、茶色く痛んでいた...
のりプロ

№78 緑茶の入れ方(ジョン・デューイ『哲学の改造』)

今年も、暑い夏になった。寝苦しい夜が続いている。エアコンと扇風機のタイマーをセットして眠りにつくのだが、僅かな電気代を気にして設定時間をケチるので、結局、タイマーが切れた後、寝苦しくて目が覚めてしまう。そんな繰り返し、となっている。ある夜。...
ちちプロ

№77 雨雲(野口雨情『七つの子』)

午後、私の住むまちに、大雨警報が出た。事務所で一人、デスクに向かって、事務作業をしていたところだった。BGMとして流していた、地元のラジオ番組が、その情報を、ふいに伝えたのだ。まだ、雨は降り出してはいなかった。窓から見上げると、ところどころ...
ちちプロ

№76 絵本展覧会(ヨシタケシンスケ『りんごかもしれない』)

暫く前の、早朝。ラジオのインタビューで、人気の絵本作家がしゃべっていた。全国を、展覧会で巡回しているらしい。見せる物が小さすぎるために、学生時代に作ったオブジェも展示したりして、色々と、工夫しているのだという。なにしろ、メインの展示物は、自...
のりプロ

№75 大相撲(『氷山の一角』に想う)

休日の午後。車で、裏道をたどり、買い物など、いくつか、用を足していた。車載テレビで、「大相撲中継」を見ながら。助手席の後ろの、いつもの席に、長女も乗っていた。ふと、相撲にまつわる記憶がよみがえった。私の祖父、長女にとっての曾(ひい)おじいち...
のりプロ

№74 お葬式(トルストイ『人生論』)

主治医から死亡診断書を書いてもらい、葬儀に向けた、段取りが始まった。もし、病院で亡くなると、遺体を、数時間で移動してほしい、と迫られることになる。私の母親は、老人施設で亡くなったから、病院よりは、多少融通は利く。しかし、ぐずぐずしてはいられ...
のりプロ

№73 たらちね(斎藤茂吉『赤光』)

午後、事務所で作業していると、スマホが反応しているのに気が付いた。電話が入っている。母親のいる施設の番号が表示されている。出ると、こんな内容だった。午後になって、呼吸の状態が悪くなった。持ち直すかもしれず、何とも言えないが、こっちに来てもら...
のりプロ

№72 蜂(志賀直哉『城の崎にて』)

事務所の庭が、雑草であふれている。両親が暮らしていた頃だって、それなりに雑草はあったはず。そんなふうにも思うのだが、10年程前の、庭で子供達が遊んでいる写真などを、たまたま目にしたとき、毎度、すっきりとした様子に驚かされる。雑草らしい雑草は...
ねこプロ

№71 縄文(『合掌土偶』に想う)

車中泊の夜が明け、朝から活動を開始した。まず、市内の古い図書館へ向かった。歴史のある図書館だった。場所を変えながら、150年も続いているという。もっとも、現在の建物自体は、数十年前に立てられたもの。有名な建築家の作品である。事件があった時な...