Vaundyの「怪獣の花唄」という曲が人気だ。
少年時代の、友達との記憶が主題。
誰しもが持っている、子供の頃の思い出を呼び覚まし、心の琴線に触れてくる。
なぜだか分からないのだが、ミュージックビデオを見ると、何時も決まって、少し泣けてくる。
先般の休み、久しぶりに従兄弟の家に泊まり、夜飲むため、沿岸部の地方都市へ、一人車で向かった。私も小学四年生まで、その小さな港湾都市で過ごした。
当時私たちの家族は、高台に造成されたアパートに住んでいた。
その日、私は、まち場にある従兄弟の家を訪ねる前に、一人で懐かしい高台へと車を登らせた。
一つ一つの道やカーブが、記憶に比べ、何と細く狭いことか。
路線バスが発着していた、記憶の中では広大な、タバコ屋の前の広場。
今や、目を疑うほどに狭い。
アイスなどを売っていた、そのタバコ屋も、家は取り壊され、コンクリートの基礎だけが残っている。あきれるくらいに小さな、四角の、コンクリートの枠だけが。
一口のバニラアイスを、チョコでコーティングした「ピノ」というアイスがある。
その頃、丁度、発売が開始された商品である。
当時、盛んにテレビコマーシャルもやっていた。
忘れられないシーンがある。
そのタバコ屋の前のベンチで、一人の友達が、自分の小遣いで買った「ピノ」を、今まさに食べようとしている。私もたまたま居合わせて、隣に座っている。
その友達にしても、初めて食べるところだった。
うらやましそうにしている私に、一つ食べるか、と聞いてくれた。
もらって初めて食べたその一粒の、何と美味しく感じられたことか。
当時、私は、十分に、お小遣いをもらっていた。
買い食いはやめましょう、という学校の指導を、生真面目に守っていただけだった。
一方、その子は決して裕福ではなかったと思う。
よく冬でも半袖を着て、寒そうに腕組みをしていた。
父親は家にはいない、という噂だった。
彼には、きっと黒人の血がまじっているに違いない。
当時私は、なかば本気で、そう信じていた。
クリクリとした目、厚いくちびる。褐色でがっちりした体つき。
気の良い少年だった。
あれから、あっという間に数十年もの、時間が流れてしまった。
坂の上の、その小さな住宅街は、思ったよりも更新されていて、随分、新しい家も建っていた。
きっと津波を逃れ、その高台に移り住んできた、人達なのだと思う。
春の日差しが穏やかで、まぶしかった。
2023年5月某日
