ねこプロ

№39 苦役列車と銀河鉄道(西村賢太『苦役列車』に想う)

私が西村賢太さんを知ったのは、その死亡の報道によってである。思い返せば、記憶の片隅に、芥川賞受賞後の、記者会見の様子がぼんやりと蘇ってもくる。そうか、あのときの作家か。突然の死に至る経緯はこうである。夜、タクシーに乗って帰ろうとしたところ、...
のりプロ

№38 馬鈴薯の煮え具合(『カレーライス』に想う)

日曜の午後。早めにカレー作りを始めた。朝食作りや弁当作りなどのプレッシャーに加え、月曜の朝は、自分の出勤の憂鬱も加わる。早め早めに家事を進め、体の負担を減らし、その後のストレスに耐えられるようにしなければ。日曜日の夕飯作りに早く取り掛かるよ...
ちちプロ

№37 アトムとかたつむり(浦沢直樹『PLUTO(プルートゥ)』)

マンションの駐車場に着き、車から降りようとドアに手をかけた時のこと。ちょうど目が行く、ドアミラーの付け根のあたり。小さなカタツムリと目があった。いつからそこに、ひっついていたものか。数年前、施設に移った私の両親が残した郊外の家。今や、休日の...
ねこプロ

№36 オラオラデ(若竹千佐子『おらおらでひとりいぐも』)

少し前のこと。「おらおらでひとりいぐも」この作品で芥川賞作家となった若竹千佐子さん。その半生をたどる番組を、NHKでやっていた。ついつい通して最後まで見た。若い頃の挫折。家庭を得た安らぎ。文学への思い。専業主婦として日々が過ぎていくことへの...
ちえプロ

№35 砥石とナマズ(高村光太郎『鯰』に想う)

いつも使っている包丁の刃先に、小さな錆びが浮かぶようになった。この夏も、随分と湿度が高かった。そのせいもあったと思う。ひどい時は、砥石で研いだ後、ちょっと目を離した小一時間くらいの間に、再び錆びが出ていることがあった。暫く前。父と母が、施設...
ねこプロ

№34 風船とレモン(梶井基次郎『檸檬』に想う)

むかし梶井基次郎の文章が頭から離れなかった時期がある。短編の「檸檬」に、少しかぶれていたと言ったほうがよいかもしれない。何かにつけ、その空気感を思い出し、浸っていることがあった。一つ思い出がある。二度目の大学受験も思うようにいかず、浪人二年...
ちえプロ

№33 トチの実と梅酒(高村光太郎『智恵子抄』)

朝、通勤バスを降りた後。職場へと向かう途中、信号待ちとなる。砕けたトチの実が散乱し、かなり歩道が汚れている。この時期、こんな看板が立つ。「注意、トチの実が落ちます」そっと上を見上げ、街路樹の枝が頭の上にかかっていないか確認する。信号待ちの立...
ねこプロ

№32 ピーマンと「ねこプロ」(佐野洋子『100万回生きたねこ』)

憂鬱な雨の月曜日。職場へ向かう、いつもの朝のバスの中。また同じことを考えている。自分は、何時までこの繰り返しを続けるつもりなのかと。次に進む準備は続けている。後は決断だ。小さい頃、ピーマンの味が苦手だった。残すことはしなかった。料理に入って...
ねこプロ

№31 行き合いの空(『巻雲と積雲』に想う)

勤務時間終了後すぐのこと。仕事上の昔の苦労話しを、ふと思い出した。それを引き合いに、今進んでいる案件のリスクについて、部下に一言話しておきたくなった。帰る前にと、担当チームのデスクへ向かう。それは、チームリーダーの目の前の席にいる中堅職員に...
ちえプロ

№30 バイトと洗濯(『柔軟剤』の香りに想う)

休日の朝。大学四年の二男が、6時前だというのに、何やらごそごそと身支度をはじめている。普段は、午前中いっぱい寝ているくせに。先般、ようやく就職の目処が付いた二男。希望していた職場に滑り込めた様子。自分で納得のいく結果であれば、それで何よりだ...