朝、通勤バスの中。
窓から外を眺めていたら、こんな風景が目にとまった。
背の高い男性と、小さな少女。
交差点で信号待ちをしている。
男性は、こちらに顔を向け、少女は背中ごし。
ランドセルの肩紐を、両方、それぞれに握りしめ、斜めに男性を見上げ、何か会話している。
おじいさんと孫、だろうか。
しかし、男性は若々しく、イケている。
ニットのキャップを含め、全身、茶色でコーディネートした服装。おしゃれだ。
少女の方も、品の良い服装である。タイトで、少し長めの白いハーフコート。高そう。
視線を引きつけられていると、私の乗ったバスが、ゆっくりと交差点を左折するその一瞬。
少女が、ぴょんとジャンプしたのだ。
両方の肩紐を、それぞれ握った格好のまま。
両膝をまげ、足の裏が、こちらに見えるくらいに高く。
子供が縄跳びする時の、バタリと音が響きそうな、絵に描いたようなジャンプ。
人が、こんなふうに飛び上がる姿を、間近で見るのも暫くぶりだな。
嬉しい会話でもしていたのだろうか。
「やったー!」
今日は、私の職場の、大規模な人事一斉内示の日である。
昔、上司がこんなことを言っていたのを思い出す。
「何だかんだいって、最大のイベントだからな。」
一つだけ、既にはっきりしていることがある。
今日の発表に、私の名前は、ない、のである。
昨晩、帰りがけ、用意していたメールを、部下達に送信してから、職場を後にした。
知らせるタイミングを、ずっと計っていたものである。
直属の部下達まで、私の早期退職を、今日の一斉内示で知るというのでは申し訳がない。
病気やトラブルで、急に辞めるわけではない。
前々から考えて、そして準備してきたこと。
せめて、それだけは、伝わるようにと書いた簡単な文章。
もう少し、何か、説明を加えた方が良かっただろうか・・・
バスに揺られながら、気持ちは、うつらうつらと、自然、そんなことをランダムに思い返す方向へと向かう。
毎年、恒例の、内示の一日の職場全体のざわつき。
ほぼ全ての職員は、これから一年の自分の運命を、今日、始めて告げられることになる。
それは、一方的な通告だ。
拒否したり、交渉したりする余地はない。
厳粛な、セレモニーチックな伝達作業が、段階的に繰り広げられる。
私自身、伝達者の役割も、務めなければならない。
段取りよく進めなければ。
それにしても。
ようやく初めて、内示の前に、自分自身で自分の未来を選択したんだな。
出せるカードは、たった一つだったけれど。
バスを降り、職場に向かって歩きながら。
ジャンプしていた少女の映像が、蘇った。
丁度、今日、何だか良い光景が見られたな。
ふと、そんな事を思う。
昔、私の長女が小学生だった頃、春に撮った写真がある。
桜の花に手を伸ばして、飛び上がった一瞬の写真。
当時、整理するために、その写真のキャプションとして、考えたフレーズ。
そういえば、こんな一言だった。
「未来へ向かって、ぴょん」
2025年3月某日